2023年01月14日 13:59
第十三章 (マトフェイ福音)
1 當日イイスス家を出でて、海濵に坐せり。
2 衆くの民彼の許に集りたれば、彼舟に登りて坐するに至れり、民皆岸に立てり。
3 乃多く譬を以て彼等に語りて曰へり、視よ、種を播く者出でて、種を播きたり。
4 播く時、道の旁に遺ちし者あり、鳥來りて、之を啄めり。
5 土の薄き磽地に遺ちし者あり、土の深かざるに因りて、直に萌え出でしが、
6 日の出でて後萎み、根なきに因りて槁れたり。
7 棘の中に遺ちし者あり、棘起きて、之を蔽へり。
8 沃壌に遺ちし者あり、實を結びしこと或は百倍或は六十倍、或は三十倍なり。
9 耳ありて聽くを得る者は聽くべし。
10 門徒彼に就きて曰へり、爾何の故に譬を以て彼等に語るか。
11 彼答へて曰へり、爾等には天國の奥義を知ること與へられたれども、彼等には與へられざりし故なり。
12 蓋有てる者は、之に與へて餘あらしめ、有たざる者は、其有てる物も之より奪はれん。
13 我が譬を以て彼等に語るは、彼等が視て見ず、聽きて聞かず、又悟らざる故なり。
14 斯く彼等に於てイサイヤの預言應へり、云く、爾等耳にて聽けども悟らず、目にて視れども見ざらん、
15 蓋此の民の心は頑になれり、耳は聽くに慵く、目は自ら閉ぢたり、恐らくは目にて見、耳にて聞き、心にて悟り、轉じて我が彼等を醫さんと。
16 然れども爾等の目は見、爾等の耳は聞くが故に福なり、
17 蓋我誠に爾等に語ぐ、多くの預言者と義人とは、爾等が見る所を見んと欲して見ざりき、爾等が聞く所を聞かんと欲して聞かざりき。
18 故に爾等種を播く者の譬の義を聽け、
19 凡そ天國の言を聞きて悟らざる者には、凶惡者來りて其心に播かれたる者を奪ふ、此れ道の旁に播かれたる者なり。
20 磽地に播かれたる者は、此れ言を聽きて、直に喜びて受くれども、
21 己に根なきが故に暫時のみ、言の爲に艱難或は窘逐に遇はば直に躓く。
22 棘の中に播かれたる者は、此れ言を聽けども、斯の世の慮と貨財の惑と其言を蔽ひて、實を結ばず。
23 沃壌に播かれたる者は、此れ言を聽きて悟り、實を結ぶこと或は百倍、或は六十倍、或は三十倍に至る者なり。
24 又譬を設けて彼等に謂へり、天國は人の其田に美種を播きたるが如し。
25 人人の寝ぬる時、其敵來り、麥の中に稗を播きて去れり。
26 苗秀でて實るに及び、稗も亦見れたり。
27 家主の諸僕來りて之に謂へり、主よ、爾は美種を爾の田に播きたるに非ずや、然らば何に由りて稗あるか、
28 彼は之に謂へり、敵人之を爲せり。諸僕彼に謂へり、然らば爾は我等が往きて、之を抜かんことを欲するか、
29 彼曰へり、否、恐らくは爾等稗を抜く時、之と共に麥をも抜かん。
30 二の者共に長ずるを容して、收穫に至れ、收穫の時我刈る者に謂はん、先づ稗を集め、之を束ねて、焚かん爲に備へ、而して麥を我が倉に斂めよと。
31 又譬を設けて彼等に謂へり、天國は芥種、人取りて其田に播きたる者の如し、
32 是れ萬の種の中最も小き者なれども、長ずるに及びては、悉くの野菜より、大にして、樹と爲り、天空の鳥來りて、其枝に棲むに至る。
33 又譬を彼等に語りて曰へり、天國は酵の如し、婦之を取りて、三斗の麪の中に納れしに、悉く発酵するに至れり。
34 此れ皆イイスス譬を以て民に語れり、譬に非ずしては彼等に語らざりき、
35 預言者を以て言はれし事に應ふを致す、云く、我が口を啓きて譬を言ひ、創世以來隱れたることを述べんと。
36 其時イイスス民を散じて、家に入れり。其門徒彼に就きて曰く、請ふ、田の稗の譬を我等に解け。
37 彼は之に答へて曰へり、美種を播く者は人の子なり、
38 田は世界なり、美種は天國の子、稗は凶惡者の子なり。
39 之を播きたる敵は惡魔なり、收穫は世の終末なり、刈る者は天使等なり。
40 故に稗を集めて、火に焚くが如く、此の世の終末にも是くの如くならん。
41 人の子は其天使等を遣して、其國より凡の誘惑と不法を行ふ者とを集めて、
42 之を火の爐に投ぜん、彼處に哀哭と切齒とあらん。
43 時に義人等は其父の國に於て日の如く輝かん。耳ありて聽くを得る者は聽くべし。
44 又天國は田に蔵れたる寶の如し、人之を見出したれば秘し、喜びて往き、盡く其諸有を販ぎて、斯の田を買ふ。
45 又天國は美き眞珠を求むる商賣の如し、
46 彼一の値貴き眞珠を見出したれば、往きて盡く其所有を販ぎて、之を買へり。
47 又天國は海に施して種種の魚を集むる網の如し、
48 旣に盈ちたれば、之を岸に曳き上げ、坐して、嘉き者を擇びて器に入れ、惡しき者を外に棄てたり。
49 世の終末にも是くの如くならん、天使等出でて、惡者を義者の中より分ちて、
50 之を火の爐に投ぜん、彼處には哀哭と切齒とあらん。
51 イイスス彼等に謂ふ、此れ皆爾等悟りしか、彼等曰く、主よ、然り。
52 彼は之に謂へり、故に凡そ天國を學びたる學士は、其寶庫より新しき物と舊き物とを出す家主の如し。
53 イイスス此等の譬を竟りて、彼處を去れり。
54 己の故土に來りて、會堂に於て彼等を敎へたるに、彼等奇とするに至れり、曰く、斯の人何より斯る智慧と異能とを得たる。
55 彼は木工の子なるに非ずや、其母はマリヤと名づけらるるに非ずや、其兄弟はイアコフ、イオシイ、シモン、イウダなるに非ずや。
56 其姉妹は皆我等の間に在るに非ずや、然らば此等皆斯の人何より得たるか、
57 遂に彼の爲に惑へり。イイスス彼等に謂へり、預言者は其故土及び其家の外に於ては尊ばれざるなし。
58 乃彼等の信ぜざるに由りて、彼處に多くの異能を行はざりき。
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