2023年01月14日 13:59
第十四章 (マトフェイ福音)
1 當時分封の君イロド、イイススの聲名を聞きて、
2 其侍臣に謂へり、此れ授洗イオアンなり、彼死より復活せり、故に彼に由りて異能は行はる。
3 蓋イロドは其兄弟フィリップの妻イロデアダの故に因りて、イオアンを執へ、之を縛りて、獄に入れたり。
4 蓋イオアン彼に謂へり、爾此の婦を納るるは宜しからずと。
5 且之を殺さんと欲したれども、民を懼れたり、其之を預言者と爲しし故なり。
6 適イロドの誕生日に値り、イロデアダの女席上に舞ひて、イロドの喜を獲たり。
7 故に彼誓ひて、其求むる所に隨ひて、之を與へんことを約せり。
8 女母の嘱に因りて曰へり、授洗イオアンの首を盤に盛りて、此に我に與へよ。
9 王憂ひたれども、誓の爲、又共に席坐する者の爲の故に、之を與へんことを命ぜり。
10 乃人を遣してイオアンを獄に斬り、
11 其首を盤に盛り、攜へ來りて女に與へたれば、女之を其母に攜へたり。
12 彼の門徒來りて其屍を取りて、之を葬り、且往きてイイススに告げたり。
13 イイスス聞きて舟に乗り、彼處を離れて、獨野の處に往けり、民之を聞きて、諸邑より歩みて彼に從へり。
14 イイスス出でて、群衆を見て、之を憫み、其病める者を醫せり。
15 日暮るるに及びて、門徒彼に就きて曰へり、此は野の處にして、時已に晩し、民を去らしめよ、彼等が諸村に往きて、己の爲に食を市はん爲なり。
16 然れどもイイスス彼等に謂へり、其往くを要せず、爾等之に食を與へよ。
17 彼等曰く、我等には此には惟五の餅と二の魚とあるのみ。
18 彼曰へり、之を此に我に攜へ來れ。
19 乃民に命じて、草の上に坐せしめ、五の餅と二の魚とを取りて、天を仰ぎて祝福し、餅を擘きて、之を門徒に與へ、門徒民に與へたり。
20 皆食ひて飽き、其餘りたる屑を拾ひて、十二の筐に盈てたり。
21 食ひし者は、婦と幼童との外、約五千人なりき。
22 イイスス直に其門徒を促して、舟に登らしめ、自ら民を去らしむる間に、己に先だちて、彼の岸に往かしめたり。
23 民を去らしめて後、彼は獨處に於て祈禱せん爲に山に登り、旣に暮れて、獨彼處に在りき。
24 時に舟海の中に在りて、浪に撼られたり、風の逆ひし故なり。
25 夜四更の時、イイスス海を履みて彼等に往けり。
26 門徒其海を履むを見て、驚きて曰へり、是れ怪物なり、乃懼に由りて呼べり。
27 然れどもイイスス直に彼等に語りて曰へり、心を安んぜよ、是れ我なり懼るる勿れ。
28 ペトル彼に答へて曰へり、主よ、若し是れ爾ならば、我に水を履みて爾に至らんことを命ぜよ。
29 彼曰へり、來れ、ペトル舟を下り、水を履みて、イイススの許に往けり。
30 然れども風の烈しきを見て、懼れ、溺れんとして、呼びて曰へり、主よ、我を救へ。
31 イイスス直に手を伸べて、之を援けて曰く、小信の者よ、何ぞ疑ひたる。
32 共に舟に登るに及びて、風息みたり。
33 舟に在る者就きて、彼を拜して曰へり、爾は誠に神の子なり。
34 旣に濟りて、ゲンニサレトの地に來れり。
35 其處の人人彼を識りたれば、徧く其近傍に人を遣して、病ある者を悉く攜へ來らしめ、
36 唯彼の衣の裾に捫らんことを求めたり、之に捫りし者は愈ゆるを得たり。
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