2023年01月17日 13:02
第26章 (マトフェイ福音)
1 イイスス悉く此等の言を竟へて、其門徒に謂へり、
2 爾等知る、二日の後は逾越節なり、人の子は十字架に釘せらるる爲に付されん。
3 其時司祭諸長と學士等と民の長老等とは、カイアファと名づくる司祭長の中庭に集り、
4 詭計を用ゐてイイススを執へて、之を殺さんと謀れり。
5 惟曰へり、節期に於てすべからず、恐らくは民の中に乱は起らん。
6 イイスス ワィファニヤに於て、癩者シモンの家に在りし時、
7 一の婦価貴き香膏を盛れる玉の盒を攜へ、彼の席坐に就きて、其首に沃げり。
8 門徒之を見て慍りて曰へり、此の糜費を爲すは何の爲ぞ、
9 蓋此の香膏は多くの価に賣りて、貧しき者に施すを得しならん。
10 イイスス之を知りて、彼等に謂へり、何ぞ婦を擾す、彼は我が爲に善き功を爲せり、
11 蓋貧しき者は常に爾等と偕にす、我は常に爾等と偕にするにあらず。
12 彼は此の香膏を我が體に沃ぎて、我を葬に備へたり。
13 我誠に爾等に語ぐ、全世界の中、凡そ此の福音の傳へられん處には、此の婦の爲しし事の述べられて其記念と爲らん。
14 其時十二の一、イウダイスカリオトと名づくる者、司祭諸長に往きて、
15 曰へり、爾等我に幾何を與へんと欲するか、我彼を爾等に付さん、彼等は之に銀三十を約せり。
16 其時より彼を付さん爲に好き機を窺へり。
17 除酵節の首の日、門徒イイススに就きて曰へり、我等が何處に爾の爲に逾越節筵を備へんことを欲するか。
18 彼曰へり、城に往き、某に至りて曰へ、師言ふ、我が時近し、我門徒と偕に爾の家に逾越節筵を行はんと。
19 門徒イイススの命ぜし如く行ひて、逾越節筵を備へたり。
20 暮に及びて、彼十二門徒と偕に席坐せり。
21 食する時、彼曰へり、我誠に爾等に語ぐ、爾等の中の一人は我を賣らん。
22 彼等大に憂ひて、各彼に謂へり、主よ、是れ我に非ずや。
23 答へて曰へり、我と偕に手を盂に著けし者は、此の人我を賣らん。
24 人の子は逝く、之を指して錄されしが如し、惟人の子を賣る者は禍なる哉、斯の人生れざりしならば、彼の爲に善かりしならん。
25 彼を賣るイウダも問ひて曰へり、夫子、是れ我に非ずや。曰く、爾言へり。
26 彼等が食する時、イイスス餅を取り、祝福して、之を擘き、門徒に與へて曰へり、取りて食へ、是れ我の體なり。
27 又爵を取り、感謝して彼等に與へて曰へり、皆之を飮め、
28 蓋是れ我の新約の血、衆くの人の爲に流さるる者、罪の赦を得るを致す。
29 我爾等に語ぐ、今より後、我復此の葡萄の實より飮まずして、我が父の國に於て、爾等と偕に、新しき者を飮む日に至らん。
30 旣に詠ひて、橄欖山に往けり。
31 其時イイスス彼等に謂ふ、爾等皆今夜我の爲に躓かん、蓋錄せるあり、我牧者を擊たん、而して群の羊は散らんと。
32 我が復活の後、我爾等に先だちてガリレヤに往かん。
33 ペトル彼に答へて曰へり、皆爾の爲に躓くとも、我は永く躓かざらん。
34 イイスス彼に謂へり、我誠に爾に語ぐ、今夜鶏の鳴かざる先に、爾三次我を諱まん。
35 ペトル彼に謂ふ、我爾と偕に死すとも、爾を諱まざらん、門徒皆亦是くの如く言へり。
36 其時イイスス彼等と偕に、ゲフシマニヤと名づくる處に來りて、門徒に謂ふ、爾等此に坐して、我が彼處に往きて祈るを待て。
37 乃ペトル及びゼワェデイの二人の子を攜へて、憂哀を催せり。
38 時にイイスス彼等に謂ふ、我が靈憂ひて死に近づけり、爾等此に在りて、我と偕に儆醒せよ。
39 乃少しく離れて、俯伏して、祈りて曰へり、我が父よ、若し能すべくば、願はくは此の爵は我を過ぎん、然れども、我が欲する如くならずして、爾の欲する如くなるべし。
40 遂に門徒に來りて、其寝ぬるを見て、ペトルに謂ふ、爾等斯く一時も我と偕に儆醒する能はざりしか。
41 儆醒せよ、祈禱せよ、誘惑に入らざらん爲なり、神゜は勇めども、肉體は弱し。
42 再往きて、復祈りて曰へり、我が父よ、若し此の爵、我之を飮まずして、我を過ぐる能はずば、爾の旨成るべし。
43 來りて、復彼等の寝ぬるを見る、其目倦みたればなり。
44 彼等を離れて、復往き、同じき言を言ひて、三次祈れり。
45 其時門徒に來りて、之に謂ふ、爾等尚寝ねて休むか、視よ、時は邇づけり、人の子は罪人の手に付さる。
46 起きよ、往かん、視よ、我を付す者は近づけり。
47 彼が尚言ふ時、視よ、十二の一なるイウダは來り、剣と棒とを持てる多くの民、司祭諸長及び民の長老等より遣されし者は、彼と偕にせり。
48 イイススを付す者彼等に號を與へて曰へり、我が接吻せん者は卽斯の人なり、彼を執へよと。
49 直にイイススに就きて曰へり、夫子、慶べよ、乃彼に接吻せり。
50 イイスス之に謂へり、友よ、胡爲れぞ來れる。其時彼等就きて、手をイイススに措きて、之を執へたり。
51 視よ、イイススと偕に在りし一人、手を伸べ、其剣を抜きて、司祭長の僕を擊ちて、其耳を削げり。
52 イイスス彼に謂ふ、爾の剣を其處に歸せ,蓋凡そ剣を執る者は剣にて亡びん。
53 或は爾は、我今我が父に求めて、彼をして我に十二軍餘の天使を遣しむること能はずと意ふか。
54 然らば聖書に、斯くあるべしと、言へること如何ぞ應はん。
55 其時イイスス民に謂へり、爾等は盗賊に向ふ如く、剣と棒とを持ちて、我を捕へん爲に出でたり、我日々殿の中に誨へて、爾等と偕に坐せしに、爾等我を執へざりき。
56 此れ皆成りしは、諸預言者の書に應ふを致す。其時門徒皆彼を遺てて奔れり。
57 イイススを執へたる者彼を曳きて、司祭長カイアファの許に至れり、彼處には學士及び長老等已に集れり。
58 ペトル遠く彼に隨ひて、司祭長の中庭に至り、其竟を觀ん爲に内に入りて、下吏等と偕に坐せり。
59 司祭諸長、長老等、及び全公會は、イイススを死に致さん爲に、彼に對する妄證を求めたれども、
60 得ざりき、多くの妄證者就きたれども、得ざりき。終に二の妄證者就きて曰く、
61 斯の人言へり、我は神の殿を毀ち、三日にして之を建つるを能すと。
62 司祭長立ちて、彼に謂へり、爾答ふる所なきか、彼等が爾に對して證する所如何。
63 イイスス默然たり。司祭長彼に謂へり、我活ける神を以て爾に誓はしむ、我等に告げよ、爾は神の子ハリストスなるか。
64 イイスス之に謂ふ、爾言へり、且我爾等に語ぐ、此より後、爾等は人の子が大能の右に坐し、天の雲に乗りて來るを見ん。
65 其時司祭長己の衣を裂きて曰へり、彼は神を瀆せり、何ぞ復證者を求めん、視よ、今爾等は其神を瀆すを聞けり。
66 爾等如何に意ふか。彼等答へて曰へり、死に當る。
67 是に於て彼等其面に唾し、彼を擊ち,或者は其頬を批ちて曰へり、
68 ハリストスよ、我等に預言せよ、爾を擊ちし者は誰ぞ。
69 時にペトル外に中庭に坐せるに、一人の婢彼に就きて曰く、爾もガリレヤのイイススと偕に在りき。
70 然れども彼は衆の前に諱みて曰へり、我爾が言ふ所を識らず。
71 彼が門を出づる時、他の婢彼を見て、彼處に在る者に謂ふ、此の人もイイスス ナゾレイと偕に在りき。
72 彼復諱みて、誓ひて曰へり、我其の人を識らず。
73 少頃ありて、彼處に立てる者近づきて、ペトルに謂へり、誠に爾も其黨の一人なり、蓋爾の言語も爾を顯す。
74 其時彼は詛ひ且誓へり、我其人を識らずと。忽鶏鳴けり。
75 ペトルはイイススの彼に、鶏の鳴かざる先に、爾三次我を諱まんと、云ひし言を憶ひ起して、外に出でて、痛く哭けり。
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