2023年01月17日 13:00
第1章 (ルカ福音)
1 我等の中に明に知られたる事、
2 卽始より言の實見者及び役者たりし者が我等に傳へたる事に就きて、多くの者が手を擧げて傳記を作るに因り、
3 尊憲なるフェオフィルよ、我も凡の事を始より審に推し原ね、次第を以て爾の爲に書さんことの思を起せり、
4 爾が學びたる教の堅き基を知らん爲なり。
5 イウデヤの王イロドの時、アワィヤの班に属する司祭にザハリヤと名づくる者あり、其妻はアアロンの裔にして、名をエリサワェタと云ふ。
6 二人ながら神の前に義なる者にして、主の一切の誡命禮儀を虧くるなく行へり。
7 彼等に子なかりき、エリサワェタは妊まざる者たりし故なり、二人共に年已に老いたり。
8 ザハリヤが其班の次に依りて、司祭の職を神の前に行ふに値りて、
9 司祭の例に循ひ、籤を掣きて、主の殿に入りて、香を焚くを得たり。
10 香を焚く時、衆民外に在りて禱れり。
11 主の天使ザハリヤに現れて、香壇の右に立てり。
12 ザハリヤ之を見て、驚き且懼れたり。
13 天使彼に謂へり、ザハリヤ懼るる勿れ、蓋爾の祈禱は聞かれたり、爾の妻エリサワェタ子を生まん、爾之をイオアンと名づけん。
14 爾には喜と樂とあらん、且多くの者は其生るるに因りて悅ばん。
15 蓋彼は主の前に大なる者とならん、酒と諸醪とを飮まず、其母の胎よりして聖神゜に充てられん。
16 彼はイズライリの諸子の多くの者を轉じて、主彼等の神に歸せしめん。
17 彼はイリヤの精神と能力とを以て主の前に行かん、父の心を子に、逆ふ者を義者の智慧に歸らしめて、備へられたる民を主に進めん爲なり。
18 ザハリヤ天使に謂へり、我何を以て之を知らん、蓋我老いたり、我が妻も年邁けり。
19 天使彼に答へて曰へり、我はガウリイル、神の前に立つ者なり、使を奉じて爾に告げ、爾に此の福音を爲す。
20 視よ、爾瘖となり、言ふ能はずして、此の事の成る日に至らん、我が言を信ぜざりし故なり、是の言は時に及びて必應はん。
21 時に民はザハリヤを候ちて、其殿の内に久しく在るを奇めり。
22 遂に出でて彼等に言ふ能はざれば、乃其殿の内に異象を見しことを暁れり、彼は首を以て彼等に意を示し、而して瘖たりき。
23 其職事の日滿つるに及びて、家に歸れり。
24 此の日の後、其妻エリサワェタ妊みて、隱れ居りしこと五月にして曰へり、
25 主は斯く我に爲せり、彼は此の日に於て我を眷みて、我が耻を人人の間に洒がしめたり。
26 第六月に於て、天使ガウリイルは神より使を奉じて、ガリレヤの邑ナザレトと名づくる所に、
27 ダワィドの家の人、名はイオシフと云ふ者に聘せられたる處女に臨めり、處女の名はマリヤなり。
28 天使入りて、之に謂へり、恩寵を蒙れる者、慶べよ、主は爾と偕にす、爾は女の中に祝福せられたり。
29 女彼を見て、其言を訝り、此の問安は何事ならんと思へり。
30 天使之に謂へり、マリヤ懼るる勿れ、蓋爾は神の前に恩寵を獲たり。
31 視よ、爾妊みて子を生まん、其名をイイススと名づけん。
32 彼は大なる者となりて、至上者の子と稱へられん、主神は彼に其祖ダワィドの位を與へん、
33 彼は世世イアコフの家に王となりて、其國終なからん。
34 マリヤ天使に謂へり、我人に適かざるに、如何にして此の事あらん。
35 天使彼に答へて曰へり、聖神゜爾に臨み、至上者の能爾を蔭はん、故に生む所の聖なる者も神の子と稱へられん。
36 視よ、爾の親戚エリサワェタ年老いて子を妊めり、素妊まざる者と稱せられしに、今已に六月なり。
37 蓋神に在りては凡そ其言ふ所能はざることなし。
38 マリヤ曰へり、我は主の婢なり、爾の言の如く、我に成るべし。天使彼を離れたり。
39 當日マリヤ立ちて、亟に山地に適き、イウダの邑に至り、
40 ザハリヤの家に入りて、エリサワェタに安を問へり。
41 エリサワェタ マリヤの安を問ふを聞きし時、胎兒其腹の内に躍れり。エリサワェタ聖神゜に滿てられ、
42 大聲に呼びて曰へり、爾は女の中に祝福せられたり、爾の腹の果も祝福せられたり。
43 我が主の母我に臨めり、我何より此を得たるか。
44 蓋爾が安を問ふ聲の我が耳に入りし時、胎兒我が腹の内に喜び躍れり。
45 信ぜし者は福なり、蓋主より彼に告げられし事は必成らん。
46 マリヤ曰へり、我が靈は主を崇め、
47 我が神゜は神我が救主を悅べり、
48 蓋其婢の卑しきを顧みたり、今より後、萬世我を福なりと謂はん。
49 蓋權能者は我に大なる事を爲せり、其名は聖なり、
50 其矜恤は世世彼を畏るる者に臨まん。
51 彼は其臂の力を顯し、心の意の驕れる者を散らせり。
52 權ある者を位より黜け、卑しき者を擧げ、
53 飢うる者を善き物に飽かしめ、富める者は空しく返らしめたり。
54 其僕イズライリを納れて、
55 我が先祖に告げしが如く、アウラアムと其裔とを世世に恤まんことを記念せり。
56 マリヤはエリサワェタと共に居りしこと三月にして、其家に歸れり。
57 エリサワェタに產期届りて、乃子を生めり。
58 彼の近隣と親戚とは、主が其大なる矜恤を彼に垂れしを聞きて、彼と偕に喜べり。
59 第八日に及びて、子に割禮を行はん爲に來り、之を其父の名に依りて、ザハリヤと名づけんとせしに、
60 其母答へて曰へり、否之をイオアンと名づく可し。
61 彼等曰へり爾が親戚の中に一人も此の名を名づくる者なし。
62 遂に其父に形を以て如何に之を名づけんと欲するを問ひしに、
63 彼簡を請ひて書して曰へり、其名はイオアンなりと、皆之を奇とせり。
64 直に其口啓け、舌解け、彼言を發して、神を祝讚せり。
65 其近隣の者皆懼れ、且此等の事徧くイウデヤの山地に揚がれり。
66 凡そ聞きし者其心に之を蔵めて曰へり、此の子は如何にならんと、主の手は彼と偕にせり。
67 其父ザハリヤ聖神゜に滿てられ、預言して曰へり、
68 祝讚せらるる哉主、イズライリの神、蓋其民を眷みて、之に購を爲し、
69 我等の爲に救の角を其僕ダワィドの家に興せり、
70 古世より其聖なる預言者の口を以て言ひしが如し、
71 卽我等を我が諸敵及び凡そ我等を惡む者の手より救ひ、
72 以て矜恤を我が先祖に施し、其聖なる約、
73 卽我が祖アウラアムに矢ひたる誓を記念せん、
74 謂ふ、我等に我が諸敵の手より救はれし後、
75 <懼なく、彼の前に在りて、聖を以て、義を以て、生涯彼に事へしめんと。
76 子よ、爾も至上者の預言者と稱へられん、蓋主の面前に行きて、其道を備へ、
77 彼の民に、其救は卽諸罪の赦にして、我が神の矜恤に因ることを知らしめん。
78 此の矜恤に因りて、東旭は上より我等に臨めり、
79 幽暗と死の蔭とに坐する者を照し、我等の足を平安の道に向はしめん爲なり。
80 子は漸く成長し、精神益强健にして、其イズライリに顯るる日に至るまで野に居りき。
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