2023年01月20日 13:20
第8章 (ルカ福音)
1 厥後彼は諸の邑及び村を巡りて、教を宣べ、神の國を福音せり、彼と偕に十二徒あり、
2 亦曾て惡鬼及び諸病より痊されたる數人の婦あり、卽七の魔鬼の出でたるマリヤ、稱してマグダリナと云ふ者、
3 又イロドの家宰フザの妻イオアンナ、又スサンナ、及び其他多くの婦、其所有を以て彼に事へし者なり。
4 衆くの民諸の邑より集りて、彼に就きたれば、彼譬を設けて曰へり、
5 播く者は其種を播かん爲に出でたり、播く時路の旁に遺ちし者あり、乃踐まれたり、又天空の鳥之を啄めり。
6 石の上に遺ちし者あり、萌え出でて稿れたり、潤澤なきが故なり。
7 棘の中に遺ちし者あり、棘共に長びて、之を蔽へり。
8 沃壌に遺ちし者あり、萌え出でて、實を結ぶこと百倍せり。之を言ひて呼べり、耳ありて聽くを得る者は聽くべし。
9 其門徒彼に問ひて曰へり、此の譬は何ぞ。
10 彼曰へり、爾等には神の國の奥義を知ること與へられたれども、他の者には譬を用ゐる、彼等視れども見ず、聽けども悟らざる爲なり。
11 此の譬の義は左の如し、種は神の言なり。
12 路の旁の者は、是れ聽けども、後惡魔來りて、其心より言を奪ふ、彼等が信じて救はれざらん爲なり。
13 石の上の者は、是れ聽く時喜びて言を受くれども、己に根なくして暫く信じ、誘惑の時に背く。
14 棘の中に遺ちし者は、是れ聽きて去り、而して度生の慮と貨財と宴樂とに蔽はれて、實を結ばず。
15 沃壌に遺ちし者は、是れ言を聽きて、淸潔良善なる心に之を守り、忍耐して實を結ぶ。(之を言ひて呼べり、耳ありて聽くを得る者は聽くべし。)
16 燈を燃し、而して器を以て之を覆ひ、或は牀の下に置く者あらず、乃燈臺の上に置く、入る者が光を見ん爲なり。
17 蓋隱れて顯れざる者なく、藏して知られず、且露ならざる者なし。
18 故に爾等聽くことの如何を愼め、蓋有てる者は之に與へられ、有たざる者は、其有てると意ふ物も、之より奪はれん。
19 時に彼の母及び兄弟彼に來りしに、群衆の爲に近づくを得ざりき。
20 或彼に告げて曰へり、爾の母及び爾の兄弟外に立ちて、爾を見んと欲す。
21 彼は之に答へて曰へり、我が母及び我が兄弟とは、神の言を聽きて行ふ者是なり。
22 一日彼は門徒と偕に舟に登りて、彼等に謂へり、我等湖の彼の岸に濟るべし、乃行けり。
23 行く時彼寝ねたり。颶風湖に吹き下し、水舟に滿たんとして、危きこと甚し。
24 門徒就きて彼を醒まして曰へり、夫子、夫子、我等亡ぶ。彼起きて、風と水の浪とを禁めたれば、則止みて、穏になれり。
25 彼等に謂へり、爾等の信は安に在るか。彼等懼れ驚きて、互に言へり、是れ何人ぞ、風にも水にも命じて、亦彼に順ふ。
26 ガリレヤに對へるガダラの地に着きて、
27 彼が岸に登りし時、邑の一人の者彼に迎へたり、乃久しく魔鬼に憑られ、衣を衣ず、家に住まずして、墓に住める者なり。
28 此の人イイススを見て號び、彼の前に俯伏し、大なる聲を以て曰へり、至上なる神の子イイススよ、我と爾と何ぞ與らん、爾に求む、我を苦しむる勿れ。
29 蓋イイススは汚鬼に此の人より出づるを命じたり、其彼を拘へしこと久しければなり。彼を守りて、鉄索と桎梏とに繫ぎたれども、彼繫を斷ちて、魔鬼の爲に野に逐はれたり。
30 イイスス彼に問ひて曰へり、爾の名は何ぞ、彼曰へり、大隊、多くの魔鬼彼に入りたればなり。
31 魔鬼はイイススに、彼等に淵に往くを命ぜざらんことを求めたり。
32 彼處に豕の大群の山に牧はれたるあり、魔鬼は彼に、其中に入るを許さんことを求めたれば彼之を許せり。
33 魔鬼人より出でて、豕に入りしに、群は山坡より湖に逸けて溺れたり。
34 牧ふ者有りし事を觀て、奔り往きて、邑及び諸村に告げたれば、
35 人人有りし所を觀ん爲に出で、イイススに來り、魔鬼の出でたる人が衣を着、心慥にして、イイススの足下に坐せるを見て、懼れたり。
36 見し者は魔鬼に憑られたる人の如何に愈されしを告げたれば、
37 ガダラ地方の民は、皆イイススに彼等を離れんことを請へり、大に懼れし故なり。彼舟に登りて返れり。
38 魔鬼の出でたる人は彼と偕に居らんことを求めたれども、イイスス之を去らしめて曰へり、
39 爾の家に歸りて、神が爾に如何なる事を行ひしを告げよ。彼往きて、全邑にイイススが彼に如何なる事を行ひしを宣べたり。
40 イイススが返りし時、民彼を接けたり、皆彼を俟ちたればなり。
41 視よ、イアイルと名づくる人にして、會堂の宰たる者、來りてイイススの足下に俯伏し、其家に入らんことを求めたり、
42 蓋彼に獨の女、年約十二の者ありて、今死せんとせり。彼が行く時、民之に擁し逼れり。
43 十二年血漏を患ふる婦、醫師の爲に其悉くの所有を費したれども、一人にも痊さるるを得ざりし者は、
44 後より就きて、彼の衣の裾に捫りしに、其血漏直に止れり。
45 イイスス曰へり、誰か我に捫りたる。衆の認めざる時、ペトル及び彼と偕に有りし者曰へり、夫子、民爾が繞りて擁し逼るに、爾は誰か我に捫りたると謂ふか。
46 然れどもイイスス曰へり、我に捫りし者あり、蓋我能の我より出でしを覺えたり。
47 婦は自ら隱す能はざるを見て、戰きて來り、彼の前に俯伏して、彼に捫りし故、又如何にして立に愈されしを、彼に衆民の前に告げたり。
48 彼は之に謂へり、女よ、心を安ぜよ、爾の信は爾を救へり、安然として往け。
49 彼が尚言ふ時、會堂の宰の家より人來りて曰く、爾の女已に死せり、師を煩はす勿れ。
50 イイスス之を聞きて、宰に答へて曰へり、懼るる勿れ、惟信ぜよ、彼は救はれん。
51 家に來りて、ペトル、イオアン、イアコフ、及び小女の父母の外、誰にも入ることを許さざりき。
52 衆人爲に哭き哀めるに、彼曰へり、哭く勿れ、彼は死せしに非ず、乃寝ぬるなり。
53 人人其死せしを知りて、彼を哂へり。
54 彼衆を外に出して、其手を執りて、呼びて曰へり、小女、起きよ。
55 其神返りて、直に起きたり、彼は之に食を與へんことを命ぜり。
56 其父母駭きて、イイスス彼等に戒めて、行はれし事を人に告ぐる勿らしめたり。
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