2023年01月20日 13:22
第9章 (ルカ福音)
1 イイスス十二徒を召し集めて、彼等に凡の魔鬼を制し、又諸病を醫す能と權とを與へ、
2 彼等を神の國を傳へ、亦病者を醫さん爲に遣し、
3 且彼等に謂へり、旅の爲に杖をも、嚢をも、糧をも、銀をも、一切取る勿れ、二の衣をも攜ふる勿れ。
4 何の家に入るとも、彼處に留りて、亦彼處より途に出でよ。
5 若し爾等を接けざる者あらば、其邑を出づる時、爾等の足の塵をも拂へ、彼等に對する證を爲さん爲なり。
6 彼等出でて、郷村を行き、徧く福音を宣べ、醫を施せり。
7 分封の君イロド、凡そイイススの行ひし事を聞きて、惑へり、蓋或者は是をイオアンの死より復活せしなりと言ひ、
8 他の者はイリヤの現れしなりと言ひ、又他の者は古の預言者の一人の復活せしなりと云へり。
9 イロド曰へり、イオアンは、我已に其首を斬れり、今我が是くの如き事を聞くは、斯れ何人ぞ、乃彼を見んと欲せり。
10 使徒等歸りて、其行ひし事を以てイイススに告げたり、彼は之を攜へて、潛にワィフサイダと名づくる邑に近き野の處に退けり。
11 民之を知りて、彼に隨ひしに、彼は之を接けて、神の國の事を語り、且醫を需むる者を醫せり。
12 日の昃く時、十二徒彼に就きて曰へり、民を去らしめよ、彼等が四周の郷村に往きて、宿を取り、食を覓めん爲なり、蓋我等は此に野の處に在るなり。
13 然れども彼曰へり、爾等之に食を與へよ。彼等曰へり、若し往きて、此の衆民の爲に食を市はずば、我等には五の餅と二の魚との外に有るなし。
14 蓋其人約五千ありき。彼其門徒に謂へり、彼等を五十づつ並び坐せしめよ。
15 是くの如く行ひて、衆人を坐せしめたり。
16 彼は五の餅と二の魚とを取りて、天を仰ぎて之を祝福し、之を擘き、門徒に與へて、民の前に陳ねしめたり。
17 皆食ひて飽き、其餘りたる屑十二筐を拾へり。
18 イイスス獨處に於て祈禱することありしに、門徒彼と偕にせり。彼は之に問ひて曰へり、民我を言ひて誰とか爲す。
19 彼等答へて曰へり、授洗イオアンと爲し、他の者はイリヤと爲し、又他の者は古の預言者の一人復活したりと爲す。
20 彼は之に謂へり、爾等は我を言ひて誰とか爲す。ペトル答へて曰へり、神のハリストスと爲す。
21 イイスス彼等に戒めて、此の事を人に告ぐる勿からんことを命じたり。
22 又曰へり、人の子は多くの苦を受け、長老等と司祭諸長と學士等とに棄てられ、且殺されて、第三日に復活すべし。
23 又衆に謂へり、人若し我に從はんと欲せば、己を舎て、日々其十字架を負ひて、我に從へ。
24 蓋己の生命を救はんと欲する者は、之を喪はん、我の爲に己の生命を喪はん者は、之を救はん。
25 蓋人全世界を獲とも、己を喪ひ、或は損なはば、何の益かあらん。
26 蓋我及び我の言を耻ぢん者は、人の子は、己の父と聖なる天使等との光榮を以て來らん時、彼を耻ぢん。
27 我誠に爾等に語ぐ、此に立てる者の中には、未だ死を嘗めずして、神の國を見んとする者あり。
28 此等の言の後約八日を越えて、彼はペトル、イオアン、イアコフを攜へ、山に登りて禱れり。
29 禱る時其面の容は變り、其衣は皎くして輝けり。
30 視よ、二人の彼と語れるあり、卽モイセイ及びイリヤなり、
31 光榮の中に現れて、彼がイエルサリムに成すべき逝世の事を言へり。
32 ペトル及び之と偕に有りし者は倦みて寝ねたり、旣に寤めて、イイススの光榮、及び二人の彼と偕に立てるを見たり。
33 其彼を離るる時、ペトル イイススに謂へり、夫子よ、我等此に居るは善し、我等三の廬を建てて、一は爾の爲、一はモイセイの爲、一はイリヤの爲にせん、自ら言ふ所を知らざりき。
34 彼が尚之を言ふ時、雲ありて彼等を蓋へり、雲に入りし時、懼れたり。
35 雲より聲ありて云ふ、此は我の至愛の子なり、彼に聽け。
36 聲已に發して、イイススの獨在るを見たり。彼等默して、當時には見し事を誰にも告げざりき。
37 翌日彼等が山より下りし時、衆くの民は彼を迎へたり。
38 視よ、民の中の一人呼びて曰へり、師よ、爾に求む、我が子を眷みよ、此れ我が獨子なり。
39 惡鬼彼を執ふれば、彼忽叫び、彼を拘攣させ、沫を噴かしめ、彼を傷ひて、漸く離る。
40 我爾の門徒に之を逐ひ出さんことを求めたれども、彼等能はざりき。
41 イイスス答へて曰へり、噫信なき悖れる世や、我何時までか爾等と偕にし、爾等を忍ばん、爾の子を此に攜へ來れ。
42 彼が來る時、魔鬼彼を倒して、拘攣させたり、イイスス汚鬼を禁め、子を醫して、其父に與へたり。
43 衆皆神の大能を奇とせり。衆が凡そイイススの行ひし事を奇とする時、彼其門徒に謂へり、
44 爾等此の言を己の耳に藏めよ、人の子は人人の手に付されん。
45 然れども彼等は此の言を暁らざりき、此れ彼等の爲に掩はれて、其之に達せざるを致せり、而して此の言を彼に問ふことを懼れたり。
46 時に彼等に念は起れり、彼等の中孰か大なると。
47 イイスス其心の念を觀て、幼兒を取り、之を己の側に立てて、
48 彼等に謂へり、我が名に因りて此の幼兒を接けん者は、我を接くるなり、我を接けん者は我に遣しし者を接くるなり、蓋爾等衆の中に最小き者は、是れ大なる者なり。
49 イオアン答へて曰へり、夫子よ、我等は爾の名を以て魔鬼を逐ひ出す人を見て、之に禁じたり、其我等に從はざる故なり。
50 イイスス之に謂へり、禁ずる勿れ、蓋爾等に敵せざる者は爾等の與属なり。
51 彼が世より擧げらるる日の近づきし時、彼イエルサリムに面して行かんことを定めたり。
52 使を其面前に遣ししに、彼等往きて、サマリヤの郷に入り、彼が爲に備へんとしたれども、
53 彼處には彼を納れざりき、其イエルサリムに面して往くが故なり。
54 其門徒イアコフ及びイオアン之を見て謂へり、主よ、爾は我等がイリヤの爲しし如く、火の天より降りて、彼等を滅さんことを命ずるを欲するか。
55 イイスス顧みて、彼等を戒めて曰へり、爾等は自ら如何なる神に属するを知らず。
56 蓋人の子の來りしは、人人の靈を滅さん爲に非ず、乃之を救はん爲なり。遂に他の郷に往けり。
57 彼等が道を行く時、或彼に謂へり、主よ、爾何處に往くとも、我爾に從はん。
58 イイスス之に謂へり、狐には穴あり、天空の鳥には巢あり、惟人の子には首を枕する處なし。
59 又他の者に謂へり、我に從へ。彼曰へり、主よ、我に先づ往きて、我が父を葬るを容せ。
60 然れどもイイスス之に謂へり、死者に其死者を葬るを任せよ、爾は往きて、神の國を傳へよ。
61 又他の者曰へり、主よ我爾に從はん、但先づ往きて吾が家の者に別を告ぐるを容せ。
62 イイスス之に謂へり、手を犂に著けて、後を顧みる者は、神の國に當らざるなり。
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