2023年01月22日 13:11
第8章 (イオアン福音)
1 イイスス橄欖山に往けり。
2 朝早く復殿に來れるに、民皆彼に就き、彼坐して之を教へたり。
3 爰に學士等及びファリセイ等は淫に於て執へられたる婦を彼に曳き來り、之を中に立てて、
4 彼に謂ふ、師よ、此の婦は今淫に於て執へられたり。
5 モイセイは律法に、我等に是くの若き者を石を以て擊ち殺すを命じたり、爾は何を言はんか。
6 彼等が之を言ひしは、イイススを試みて、彼を訴ふる由を得ん爲なり。イイスス顧みずして、躬を鞠めて、指を以て地に描けり。
7 彼等問ひて已まざれば、イイスス起きて、彼等に謂へり、爾等の中罪なき者は、先づ石を以て之に投げよ。
8 復身を鞠めて、地に描けり。
9 彼等之を聞きて、其良心に責められ、長なる者より始めて、末なる者に至るまで、一々出で行き、イイスス獨遺り、及び婦中に立てり。
10 イイスス起きて、人無く、唯婦のみ在るを見て、之に謂へり、婦よ、爾を訴ふる者安に在るか、誰も爾を罪せざりしか。
11 彼答へて曰へり、主よ、誰も無し。イイスス之に謂へり、我も爾を罪せず、往け、是より罪を犯す勿れ。
12 イイスス復衆に語りて曰へり、我は世の光なり、我に從ふ者は暗を行かず、乃生命の光を獲ん。
13 ファリセイ等彼に謂へり、爾自ら己の事を證す、爾の證は眞ならず。
14 イイスス彼等に答へて曰へり、我自ら己の事を證すとも、我が證は眞なり、蓋我は何れより來り、何れに往くを知る、爾等は我が何れより來り、何れに往くを知らず。
15 爾等肉に循ひて審す、我は何人をも審せず。
16 若し我審せば、我が審は眞なり、蓋我獨在るに非ず、乃我及び我を遣しし父在るなり。
17 爾等の律法にも錄せるあり、二人の證は眞なりと。
18 我は己の事を證す、我を遣しし父も又我の事を證するなり。
19 彼ら曰へり、爾の父は安に在るか。イイスス答へて曰へり、爾等我をも我が父をも識らず、若し爾等我を識らば、我が父をも識るならん。
20 此等の言は、イイスス殿に在りて教へし時、獻賽所に於て之を言へり、彼を執ふる者なかりき、彼の時未だ至らざればなり。
21 イイスス復彼等に謂へり、我は往く、爾等我を尋ねん、而して爾等の罪の中に死なん。我が往く所には爾等來る能はず。
22 イウデヤ人曰へり、豈彼は己を殺さんか、蓋云ふ、我が往く所には爾等來る能はずと。
23 イイスス彼等に謂へり、爾等は下に属し、我は上に属す、爾等は斯の世に属し、我は斯の世に属せず。
24 故に我爾等に謂へり、爾等の罪の中に死なんと、蓋若し爾等は是れ我なりと信ぜずば、乃爾等の罪の中に死なん。
25 彼等曰へり、爾は誰たる。イイスス彼等に謂へり、我は始より爾等に言ふ所の如き者なり。
26 我には爾等の事に於て語り、且審すること多くあり、然れども我を遣しし者は眞なり、我彼より聞きし事を以て世に語ぐ。
27 彼等は其父を指して言ひしを悟らざりき。
28 故にイイスス彼等に謂へり、爾等人の子を擧ぐる後、是れ我なりと知り、且我が己に由りて何事をも行はず、乃我が父の我に教へし如く之を語るを知らん。
29 我を遣しし者は我と偕にす、父は我を遺して獨在らしめず、蓋我常に其悅ぶ所を行ふなり。
30 彼が此を語れる時、多くの者彼を信ぜり。
31 時にイイスス彼を彼を信ぜしイウデヤ人に謂へり、爾等若し常に我が言に居らば、眞に我が門徒たるなり。
32 爾等眞實を識らん、眞實は爾等を自由の者と爲さん。
33 彼に答へて曰へり、我等はアウラアムの裔なり、未だ嘗て人の奴隷と爲らざりき、爾何ぞ自由の者と爲らんと言ふ。
34 イイスス彼らに答へて曰へり、我誠に誠に爾等に語ぐ、凡そ罪を行ふ者は罪の奴隷なり。
35 然れども奴隷は永く家に居らず、子は永く居るなり。
36 故に若し子爾等を自由たらしめば、爾等は誠に自由の者と爲らん。
37 我爾等がアウラアムの裔たるを知る、然れども爾等我を殺さんと謀る、蓋我が言は爾等の衷に容れられず。
38 我は我が父に於て見し事を言ひ、爾等は爾等の父に於て見し事を行ふ。
39 彼に答へて曰へり、我等の父はアウラアムなり。イイスス彼等に謂ふ、爾等若しアウラアムの子たらば、アウラアムの事を行ふならん。
40 然るに爾等今我卽神より聞きたる眞實を爾等に語りし人を殺さんと謀る、アウラアムは之を行はざりき。
41 爾等は爾等の父の事を行ふ。彼に謂へり、我等は淫に由りて生れしに非ず、我等に一の父あり、卽神なり。
42 イイスス彼等に謂へり、若し神爾等の父たらば、爾等我を愛するならん、我神より出でて來りしに因る、蓋我己に由りて來りしに非ず、乃彼は我を遣せり。
43 爾等何ぞ我が語れる事を悟らざる、我が言を聽く能はざる故なり。
44 爾等は爾等の父惡魔に属し、爾等の父の慾を行はんと欲す。彼は始より殺人者にして、眞實に立たざりき、眞實其衷に在らざればなり。彼は誑を言ふ時、己に属する者を言ふ、蓋彼は誑者且誑の父なり。
45 然れども我眞實を言ふに因りて、爾等我を信ぜず。
46 爾等の中誰か罪を以て我を責めん、若し、我眞實を言はば、爾等我を信ぜざる。
47 神の属する者は神の言を聽く。爾等聽かざるは、神に属せざる故なり。
48 イウデヤ人彼に答へて曰へり、我等、爾がサマリヤ人にして、且魔鬼に憑らるる者なりと、言ふは宜ならずや。
49 イイスス答へて曰へり、我は魔鬼に憑らるるに非ず、乃我は我が父を尊び、爾等は我を辱む。
50 然れども我は己の榮を求めず、一の求むる者、且審判する者あるなり。
51 我誠に誠に爾等に語ぐ、人若し我が言を守らば、世世に死を見ざらん。
52 イウデヤ人彼に謂へり、今我等は爾が魔鬼に憑らるるを知れり。アウラアム死し、諸預言者も亦然り、而して爾言ふ、人若し我が言を守らば、世世に死を嘗めざらんと。
53 爾豈我が父アウラアム已に死せし者より大なるか、諸預言者も亦死せり、爾は己を誰とか爲す。
54 イイスス答へて曰へり、若し我己を榮せば、我が榮は無に歸す。我を榮する者は我が父、卽爾等が我等の神と言ふ所の者なり。
55 爾等は彼を識らず我は彼を識る、若し我彼を識らずと言はば、爾等の如き誑者と爲らん。然れども我は彼を識り、且彼の言を守る。
56 爾等の父アウラアムは甚我の日を見んことを望めり、彼且之を見、而して喜べり。
57 イウデヤ人彼に謂へり、爾年尚五十に及ばざるに、アウラアムを見しか。
58 イイスス彼等に謂へり、我誠に誠に爾等に語ぐ、アウラアムの未だ有らざる先に、我在るなり。
59 是に於て彼等石を取りて、彼を擊たんとせり、然れどもイイスス隱れて、其中を過ぎ殿を出でて去れり。
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