2023年01月22日 13:17
第12章 (イオアン福音)
1 逾越節の前六日、イイスス ワィファニヤに來れり、卽ラザリ嘗て死して彼が死より復活せしめし者の居る所なり。
2 彼處に於て彼の爲に晩餐を設けたり、マルファ供事し、ラザリは彼と偕に席坐せし者の一たり。
3 マリヤは純良なるナルドの価貴き香膏一斤を執りて、イイススの足に膏り、己の髪を以て其足を拭へり、家は香膏の香気に滿たされたり。
4 其門徒の一、シモンの子イウダ イスカリオト、卽彼を賣らんとする者曰く、
5 何ぞ、此の香膏を銀三百に售りて、貧しき者に施さざりし。
6 彼の之を言ひしは、貧しき者を慮る爲に非ず、卽竊者たるに因りてなり。彼は金匣を持ち、其内に藏めたる者を攜へたり。
7 イイスス曰へり、彼を舎け、彼は我が葬の日の爲に此を貯へたり。
8 蓋貧しき者は常に爾等と偕にす、我は常に爾曹と偕にするにあらず。
9 イウデヤの衆くの民は彼の彼處に在るを知りて、獨イイススの爲のみならず、乃其死より復活せしめしラザリをも見ん爲に來れり。
10 司祭諸長はラザリをも殺さん事を謀りたり、
11 蓋彼の故に因りて、多くのイウデヤ人往きて、イイススを信ぜり。
12 明日、節筵の爲に來りし衆くの民は、イイススのイエルサリムに來るを聞きて、
13 椶櫚の枝を取り、出でて彼を迎へ、呼びて曰へり、オサンナ、主の名に因りて來るイズライリの王は祝福せらる。
14 イイスス小驢を獲て、之に乗れり、錄されしが如し、云く、
15 シオンの女よ、懼るる勿れ、視よ、爾の王は小驢に乗りて臨むと。
16 彼の門徒は初此を暁らざりき、然れどもイイススの榮せられし後、此の事の彼を指して錄され、且之を彼に行ひしを憶ひ起せり。
17 先にイイススと偕に在りし民は、彼がラザリを墓より呼び出して、之を死より復活せしめし事を證せり。
18 此に縁りて民は彼を迎へたり、蓋彼が此の奇蹟を行ひしを聞けり。
19 ファリセイ等相語りて曰へり、豈爾等が謀る所の一も益なきを見ざるか、視よ、世は皆彼に從へり。
20 節筵に、禮拜する爲に上りたる者の中にエルリン人あり。
21 彼等はガリレヤのワィフサイダの人なるフィリップに就きて、之に請ひて曰へり、君よ、我等イイススを見んことを望む。
22 フィリップ來りて、アンドレイに告げ、アンドレイ及びフィリップは又之をイイススに告ぐ。
23 イイスス彼等に答へて曰へり、人の子の榮せらるる時至れり。
24 我誠に誠に爾等に告ぐ、麥の粒若し地に遺ちて死なずば、獨存す、若死なば、多くの實を結ぶ。
25 己の生命を愛する者は、之を喪はん、己の生命を斯の世に惡む者は、永生の爲に之を護らん。
26 人若し我に事へば、我に從ふべし、我が在る所は、我に事ふる者も亦彼處に在らん。人若し我に事へば、我が父彼を貴ばん。
27 今我が靈は傷めり、我何をか言はん、父よ、我を斯の時より救へ、然れども我は特に斯の時の爲に來れり。
28 父よ、爾の名を榮せよ。時に天より聲來りて、云ふ、我已に之を榮せり、且復之を榮せん。
29 旁に立ちて聞きし民は曰へり、雷の震ひしなり、他の者は曰へり、天使の彼に語りしなり。
30 イイスス答へて曰へり、此の聲の有りしは、我の爲に非ず、乃爾等の爲なり。
31 今斯の世は審判せらる、今斯の世の君は外に逐はれん。
32 我が地より擧げられん時は、衆を引きて我に就かしめん。
33 彼が此を言ひしは、其何の死を以て死せんとするを示ししなり。
34 民彼に對へて曰へり、我等律法に、ハリストスは世世に存すと言へるを聞けり、爾何ぞ人の子は擧げらるべしと言ふ、此の人の子は誰ぞ。
35 イイスス彼等に謂へり、尚少時光は爾等と偕に在り、光ある間に行け、暗の爾等を蔽はざらん爲なり、暗に行く者は何へ往くを知らず。
36 爾等光ある間に光を信ぜよ、光の子と爲らん爲なり。イイスス旣に此を言ひ、彼等を離れて、隱れたり。
37 彼は斯く多くの休徴を彼等の前に行ひたれども、尚彼を信ぜざりき、
38 預言者イサイヤの言に應ふを致す、云く、主よ、誰か我等より聞きし事を信じたる、主の臂は誰にか顯れたると。
39 彼等が信ずること能はざりしは、蓋イサイヤの復言ひしが如く、
40 其目を瞽にして、其心を頑にせり、恐らくは目にて視、心にて悟り、轉じて我が彼等を醫さんと。
41 イサイヤの之を言ひしは、彼の光榮を見、彼を指して語りし時にあり。
42 然るに有司の中にも多くの者は彼を信ぜり、惟ファリセイ等の故に因りて、之を顯さざりき、會堂より逐はれざらん爲なり。
43 蓋人の光榮を愛せしこと、神の光榮に過ぎたり。
44 イイスス呼びて曰へり、我を信ずる者は、我を信ずるに非ず、乃我を遣しし者を信ずるなり。
45 我を見る者は、我を遣しし者を見るなり。
46 我は光にして世に來れり、凡そ我を信ずる者は暗に居らざらん爲なり。
47 若し人我が言を聞きて信ぜずば、我彼を定罪せず、蓋我が來りしは、世を定罪せん爲に非ず、乃世を救はん爲なり。
48 我を拒みて、我が言を納れざる者には、之を定罪する者あり、卽我が語りし言なり、此れ末の日に於て彼を定罪せん。
49 蓋我は己に由りて語りしに非ず、卽我を遣しし父は、彼我に言ふべき事、語るべき事を命ぜり。
50 我は其命の永遠の生命なるを知る。故に我が語る所は、父の我に言ひし如く語るなり。
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