2023年01月23日 13:45
第5章 (マルコ福音)
1 遂に海の彼の岸なるガダラの地に至れり。
2 彼が舟を離れし時、汚鬼を患ふる人墓より出でて、直に彼を迎へたり。
3 此の人墓を住處と爲せり、鉄索を以てすとも、何人も彼を繫ぐ能はざりき、
4 蓋彼は屡桎梏と鉄索とに繫がれたれども、鉄索を斷ち、桎梏を毀り、人彼を制するを得ざりき。
5 夜も昼も恒に山と墓とに在りて號び、又其身を石に打てり。
6 彼遙にイイススを見て、趨り附きて、之を拜し、
7 大なる聲を以て呼びて、曰へり、至上なる神の子イイススよ、我と爾と何ぞ與らん、神に因りて爾に求む、我を苦むる勿れ。
8 蓋イイスス之に謂へり、汚鬼、斯の人より出でよ。
9 又之に問へり爾の名は何ぞ。答へて曰へり我名は大隊、我等多き故なり。
10 乃切に彼等を此の地の外に逐はざらんことを求めたり。
11 彼處に、山の側に、豕の大なる群牧はれたれば、
12 魔鬼皆彼に求めて曰へり、我等を豕に遣して、其中に入らしめよ。
13 イイスス直に之を許せり汚鬼出でて、豕に入りしに、群は山坡より海に逸け、約二千匹ありて海に溺れたり。
14 豕を牧ふ者奔りて、邑及び諸村に告げたれば、人人有りしことを觀ん爲に出で、
15 イイススに來りて、先に魔鬼を患ひ、大隊に憑られたる者が、衣を着、心慥にして坐せるを見て、懼れたり。
16 見し者は魔鬼を患ひたる者に有りし事の如何、及び豕の事を彼等に語げたれば、
17 彼等はイイススに其境を離れんことを請へり。
18 彼が舟に登れる時、魔鬼に憑られたる者彼と偕にせんことを求めたり。
19 イイスス許さずして、之に謂ふ、爾の家に爾の親属に歸りて、彼等に主が如何なる事を爾に行ひ、及び如何に爾を憐みしを告げよ。
20 彼往きてデカポリに於てイイススが彼に如何なる事を行ひしを宣べたれば、人皆之を奇とせり。
21 イイスス舟に乗りて、復彼の岸に濟りし時、衆くの民は、彼に集り、彼は海濵に在りき。
22 視よ、會堂の宰の一人、イアイルと名づくる者來り、彼を見て、其足下に俯伏し、
23 切に彼に求めて曰く、我が女死せんとす、請ふ來りて、之に手を按せ、之をして愈えて、生くるを得しめよ。
24 イイスス之と偕に往けり、時に衆くの民從ひ、彼に擁し逼れり。
25 或婦十二年血漏を患ひ、
26 多くの醫師に因りて多く苦み、其所有を盡く費したれども、聊も益なくして、益惡しくなれり。
27 イイススの事を聞きて、民の中に後より來りて、彼の衣に捫れり。
28 蓋曰へり、我第其衣に捫らば、愈ゆるを得んと。
29 直に其血の源涸れて、婦其身に病の愈されしを覺えたり。
30 イイスス忽自ら能の己より出でたるを覺え、民の中に顧みて曰へり、誰か我が衣に捫りたる。
31 門徒彼に謂へり、爾は民が爾に擁し逼るを見るに、誰か我に捫りたると云ふか。
32 然れども彼は圜視して、之を行ひし者を見んと欲せり。
33 婦己に成りしことを知り、懼れ慄きて、來りて彼の前に俯伏し、悉くの實を以て彼に語げたり。
34 彼は之に謂へり、女よ、爾の信は爾を救へり、安然として往き、爾の病より健になれ。
35 彼が尚言ふ時、會堂の宰の家より人來りて曰く、爾の女已に死せり、何ぞ復師を煩はす。
36 イイスス語ぐる所の言を聞きて、直に會堂の宰に謂ふ、懼るる勿れ、惟信ぜよ。
37 乃ペトル、イアコフ、及びイアコフの兄弟イオアンの外、誰にも己に從ふを許さず、
38 會堂の宰の家に來りて、人人の號咷、其哭きて大に叫ぶを見、
39 旣に入りて、彼等に謂ふ、何ぞ咷ぎ、且泣く、小女は死せしに非ず、乃寝ぬるなり。
40 人人彼を哂へり。彼衆を出して、小女の父母と彼に從へる者とを率ゐて、小女の臥せる處に入り、
41 小女の手を執りて、之に謂ふ、「タリファ、クミ」、譯すれば女よ、爾に言ふ、起きよ。
42 女直に起き、且歩めり、蓋其年は十二なり、見し者大に駭けり。
43 イイスス嚴しく彼等に之を人に知らしめんことを禁じ、又女に食を與へんことを命ぜり。
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