2023年01月23日 13:46
第6章 (マルコ福音)
1 イイスス彼處を出でて、己の故郷に至れり、其門徒彼に從へり。
2 安息日に及びて、彼會堂に於て教を宣べしに、衆くの聽ける者奇として曰へり、斯の人何より斯を得たるか、彼に賦へられし智慧は維れ何ぞ、是くの如き異能は如何にして其手に由りて行はるるか、
3 彼は木工にして、マリヤの子、イアコフ、イオシヤ、イウダ、シモンの兄弟なるに非ずや、其姉妹は此に我等の間に在るに非ずや、乃彼の爲に惑へり。
4 イイスス彼等に謂へり預言者は其故郷、其親属、其家の外に於て尊ばれざるなし。
5 乃彼處に於ては何の異能をも行ふ得ざりき、惟數人の病者に手を按せて、之を醫せり。
6 且彼等の不信を怪めり。次ぎて四周の諸村を巡りて、教を宣べたり。
7 又十二門徒を召して、彼等を二人づつ遣し、彼等に汚鬼を制する權を與へたり。
8 又彼等に、旅の爲に、一の杖の外、嚢をも、糧をも、帶に貯ふる銅をも、一切執る勿らんことを命じ、
9 惟履を著くるのみにして、二の衣を衣ること勿らしめたり。
10 又彼等に謂へり、何處に於ても人の家に入らば、彼處に留りて、出づるに至れ。
11 若し爾等を接けず、爾等に聽かざる者あらば、彼處を出づる時、爾等が足の下の塵を拂へ、彼等に對する證を爲さん爲なり、我誠に爾等に語ぐ、審判の日に於て、ソドム及びゴモラは斯の邑より忍び易からん。
12 彼等出でて、悔改の教を宣べ、
13 且多くの魔鬼を逐ひ出し、多くの病める者に油を傅けて、之を醫せり。
14 イロド王イイススの事を聞きて、(蓋其名は揚れり、)曰へり、此れ授洗イオアンが死より復活せしなり、故に彼に由りて異能は行はる。
15 他の者は是れイリヤなりと曰ひ、又他の者は是れ預言者、或は諸預言者の一の若き者なりと曰へり。
16 惟イロド聞きて曰へり、是れ我が首を斬りしイオアンなり、彼は死より復活せり。
17 蓋此のイロドは人を遣して、イオアンを執へて、之を獄に繫げり、其兄弟フィリップの妻イロデアダの爲の故なり、其之を娶りたればなり。
18 蓋イオアンはイロドに謂へり、爾の兄弟の妻を娶るは宜しからずと。
19 イロデアダ彼を怨みて殺さんと欲したれども、能はざりき。
20 蓋イロドはイオアンを義にして聖なる人たるを知りて、彼を畏れ、及び彼を護り、彼に聞きて多くの事を行ひ、且欣びて彼に聞けり。
21 適好き機會の日は至れり、卽イロド、其誕生日に於て諸大臣、千夫長、及びガリレヤの尊者の爲に筵を設けたり。
22 イロデアダの女入りて舞ひ、イロド及び共に席坐する者の喜を獲たり。王女に謂へり、爾が欲する所を我に求めよ、我爾に與へん。
23 又彼に誓へり、凡そ爾が我に求むる所は、我が國の半に至ると雖、爾に與へん。
24 女出でて、其母に謂へり、何を求むべき。彼曰へり。授洗イオアンの首。
25 女直に急ぎ入りて、王に求めて曰へり、我爾が授洗イオアンの首を今盤に盛りて我に與へんことを欲す。
26 王憂ひたれども、誓の爲、又共に席坐せる者の爲の故に、之を拒むを欲せざりき。
27 王直に一卒を遣し、其首を攜へんことを命ぜり。
28 彼往きて、之を獄に斬り其首を盤に盛り、攜へて之を女に與へ、女之を其母に與へたり。
29 其門徒之を聞きて來り、其屍を取りて、墓に藏めたり。
30 使徒等イイススの許に集りて、凡そ行ひし事、教へし事を彼に告げたり。
31 彼は之に謂へり、爾等獨野の處に往きて、暫く休め。蓋來る者去る者多くありて、彼等食ふ遑だになかりき。
32 乃舟に乗りて、彼等獨野の處に往けり。
33 民其往くを見て、多くの者彼等を識りたれば、諸の邑より徒歩にて共に趨り、其往く所に先だちて、彼の許に集れり。
34 イイスス出でて、群衆を見て、之を憫みたり、其牧者なき羊の如き故なり、乃多く之を教へたり。
35 時已に晩くなりて、門徒彼に就きて曰く、此は野の處にして、時已に晩し、
36 衆を去らしめよ、彼等が四周の鄕村に往きて、己の爲に餅を市はん爲なり、蓋彼等に食ふべき物なし。
37 彼答へて曰へり、爾等之に食を與へよ。彼に謂ふ、我等往きて、銀二百を以て餅を市ひ、之に與へて食はしめんか。
38 彼曰く、爾等に餅幾何かある、往きて觀よ。彼等知り得て曰く、五の餅及び二の魚。
39 彼は之を命じて、衆人を青草の上に区々に坐せりめたり。
40 乃百人或は五十人づづ列々に席坐せり。
41 彼は五の餅と二の魚を取りて、天を仰ぎて祝福し、餅を擘き、其門徒に與へて、衆の前に陳ねしめ、又二の魚をも衆に分てり。
42 皆食ひて、飽きたり。
43 餘りたる屑と殘りたる魚とを拾ひて、十二の筐に盈てたり。
44 餅を食ひし者は約五千人なりき。
45 イイスス直に其門徒を促して、舟に登らしめ、自ら民を去らしむる間に、己に先だちて、彼の岸なるワィフサイダに往かしめたり。
46 民を去らしめて後、彼祈禱せん爲に山に登れり。
47 暮に及びて、舟は海の中に在り、彼は獨陸に在りて、
48 彼等が舟を漕ぐに苦めるを見たり、風の彼等に逆ふ故なり。夜四更の頃、彼海を履みて、彼等に近づき、而して彼等を過ぎんと欲せり。
49 彼等は其海を履むを見て、是れ怪物なりと意ひて呼べり、
50 蓋皆彼を見て惶れたり。彼直に之と語り、而して之に謂ふ、心を安んぜよ、是れ我なり懼るる勿れ。
51 乃舟に登りて、彼等に就きたれば、風息みたり。彼等中心に極めて甚しく駭き且奇めり、
52 蓋餅の奇蹟を悟らざりき、其心の頑なりし故なり。
53 旣に濟り、ゲンニサレトの地に至りて、岸に泊けり。
54 舟より出でし時、人人直に彼を識りたれば、
55 徧く近傍の地を馳せ廻りて、病ある者を牀に載せ、彼の在る所を聞きて、彼處に舁き至れり。
56 凡そ彼の入りし所、或は村或は邑、或は鄕は、人其市に病者を置き、唯彼の衣の裾にだに捫らんことを求めたり、彼に捫りし者は愈ゆるを得たり。
次章