2023年01月23日 13:55
第9章 (マルコ福音)
1 又彼等に謂へり、我誠に爾等に語ぐ、此に立てる者の中には、未だ死を嘗めずして、神の國が權能を以て來るを見んとする者あり。
2 六日を越えて、イイススはペトル、イアコフ、イオアンを攜へ、獨彼等のみを率ゐて、高き山に登り、彼等の前にて容を變へたり。
3 其衣は耀きて、雪の如く甚白くなれり、地上の漂工の白くする能はざる者の如し。
4 イリヤはモイセイと偕に彼等に現れて、イイススと語れり。
5 ペトル、イイススに謂ふ、夫子、我等此に居るは善し、我等三の廬を建てて一は爾の爲、一はモイセイの爲、一はイリヤの爲にせん。
6 蓋自ら言ふ所を知らざりき、彼等大に懼れし故なり。
7 又雲有りて彼等を蓋ひ、雲より聲出でて云ふ、此は我の至愛の子なり、彼に聽け。
8 彼等たちまち環視して、旣に誰を見ず、獨イイススのみ彼等と偕に在りき。
9 山を下る時、イイスス彼等に人の子が死より復活せざる先には、見たることを人に語ぐる勿らんことを命じたり。
10 彼等斯の言を其中に留めて、相議して曰へり、死より復活すとは何の意ぞ。
11 又彼に問ひて曰へり、學士等がイリヤ先に來るべしと云ふは何ぞや。
12 彼答へて曰へり、然り、イリヤ先に來りて、萬事を整ふべし、人の子も亦、之を指して錄されしが如く多くの苦を受け、人に卑めらるべし。
13 唯我爾等に語ぐ、イリヤ已に來れり、而して人人欲する所に隨ひて彼を侍へり、彼を指して錄されしが如し。
14 旣に門徒の所に來りて、群衆の彼等を環り、且學士等の彼等と議論するを見たり。
15 衆民たちまち彼を見て駭き、趨り前みて安を問へり。
16 彼學士等に問ひて曰へり、彼等と議論するは何の事ぞ。
17 民中の一人答へて曰へり、師よ、我瘖の鬼に憑られたる我が子を爾に攜へ來れり。
18 鬼は何處に彼を執ふとも、投げ仆し、彼沫を噴き、齒を切み、體枯る、我爾の門徒に之を逐ひ出ださんことを請ひたれども、彼等能はざりき。
19 イイスス彼に答へて曰く、噫信なき世や、我何時までか爾等と偕に在らん、何時までか爾等を忍ばん、彼を我が許に攜へ來れ。
20 乃彼を攜へ來れり、彼イイススを見れば、鬼忽彼を拘攣させ、彼地に仆れ輾びて沫を噴けり。
21 イイスス其父に問へり、彼に斯く爲りしは何の時よりか。曰へり、幼き時よりなり。
22 鬼は彼を滅さん爲に、屡火に又水に投じたり。爾若し何をか能せば、我等を憫みて、我等を助けよ。
23 イイスス之に謂へり、爾若し幾何か信ずることを能せば、信ずる者には能せざることなし。
24 童子の父直に涙を垂れて、呼びて曰へり、主よ、我信ず、我が不信を助けよ。
25 イイスス民の趨せ集るを見て、汚鬼を禁めて、之に謂へり、瘖にして聾なる鬼よ、我爾に命ず、彼より出でて、再彼に入る勿れ。
26 鬼號びて、甚しく彼を拘攣させて出でたり、彼は死せし者の若くなりて、多くの者彼死せりと云ふに至れり。
27 イイスス其手を執りて、彼を起したれば、彼卽立てり。
28 イイスス家に入りし時、其門徒私に彼に問へり、我等が之を逐ひ出だす能はざりしは何の故ぞ。
29 彼曰へり、祈禱と齋とに由らざれば、此の類は出づるを得ざるなり。
30 彼等彼處を出でて、ガリレヤを過ぐ、彼は人の之を知らんことを欲せざりき。
31 蓋其門徒に教へて、人の子には人人の手に付され、人人彼を殺し、殺されて後彼第三日に復活せんと曰へり。
32 惟彼等は此の言を暁らざりき、亦彼に問ふことを恐れたり。
33 彼カペルナウムに來りて家に在る時、彼等に問へり、爾等が途中相議せしは何の事ぞ。
34 彼等默然たり、蓋途中孰か大なると相議したり。
35 彼坐して、十二徒を召して、之に謂ふ、先たらんと欲する者は、衆の後と爲り、衆の役者と爲るべし。
36 又幼兒を取りて、彼等の中に立て、且之を抱きて、彼等に謂へり。
37 我が名に因りて、是くの如き幼兒の一人を接けん者は、我を接くるなり、我を接けん者は、我を接くるに非ず、乃我を遣しし者を接くるなり。
38 イオアン彼に答へて曰へり、師よ、我等は爾の名を以て魔鬼を逐ひ出し、而して我等に從はざる人を見て、之に禁じたり、其我等に從はざる故なり。
39 イイスス曰へり、之に禁ずる勿れ、蓋我が名を以て異能を行ひし者は、未だ幾ならずして我を誹る能はず。
40 蓋爾等に敵せざる者は爾等の與属なり。
41 爾等がハリストスに属する故を以て、我が名に因りて、爾等に水一杯を飮ましめん者は、我誠に爾等に語ぐ、其賞を失はざらん。
42 然れども我を信ずる此の小子の一人を罪に誘はん者は、寧磨石を其頚に懸けられて、海に投ぜられん。
43 若し爾の手爾を罪に誘はば、之を斷て、爾の爲には、殘缺にして生命に入るは、兩の手ありて地獄に減えざる火に入るより勝れり、
44 彼處には彼等の蟲死せず、火減えず。
45 若し爾の足爾を罪に誘はば、之を斷て、爾の爲には、跛にして生命に入るは、兩の足ありて地獄に減えざる火に投ぜらるるより勝れり、
46 彼處には彼等の蟲死せず、火減えず。
47 若し爾の目爾を罪に誘はば、之を抉れ、爾の爲には、一の目ありて神の國に入るは、兩の目ありて火の地獄に投ぜらるるより勝れり、
48 彼處には彼等の蟲死せず、火減えず。
49 蓋凡の人は火を以て塩せられん、又凡の祭物は塩を以て塩せられん。
50 塩は善き物なり、然れども塩若し其味を失はば、何を以て之を鹹くせん。爾等の内に塩を有ち、亦互の和平を有て。
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