2023年01月23日 14:01
第14章 (マルコ福音)
1 二日の後は逾越節及び除酵節なり。司祭諸長と學士等とは如何に詭計を用ゐて、イイススを執へて、之を殺さんと謀れり、
2 惟曰へり、節期に於てすべからず、恐らくは民の中に乱は起らん。
3 彼がワィファニヤに於て癩者シモンの家に在りて席坐せる時、一の婦価貴き純良なる「ナルド」の香膏を盛れる玉の盒を攜へ來り、盒を破りて、彼の首に沃げり。
4 或者愠りて、相語りて曰へり、此の香膏の麋費は何の爲ぞ、
5 蓋此銀三百餘の価に賣りて、貧しき者に施すを得しならん。乃婦を咎めたり。
6 イイスス曰へり之を舎け。何ぞ之を擾す、彼は我が爲に善き功を爲せり、
7 蓋貧しき者は常に爾等と偕にし、爾等欲する時之に善を行ふを得、我は常に爾等と偕にするにあらず。
8 彼は能する所を行へり、卽我が體に膏ぬりて、之を葬に備へたり。
9 我誠に爾等に語ぐ、全世界の中、凡そ此の福音の傳へられん處には、此の婦の爲しし事も述べられて、其記念と爲らん。
10 時に十二の一なるイウダ「イスカリオト」司祭諸長に往けり、イイススを之に賣らん爲なり。
11 彼等聞きて喜び、銀を彼に與へんことを約したれば、彼は如何にして好機に於て之を付さんと謀れり。
12 除酵節の首の日、卽逾越節の羔を宰る時、門徒イイススに謂ふ、我等が往きて、何處に爾の爲に逾越節の食を備へんことを欲するか。
13 彼二人の門徒を遣して、之に謂ふ、城に往け、水の盛れる瓶を攜ふる人爾等に遇はん、之に從ひて、
14 其入る所の家の主に語げよ、師言ふ、我が門徒と偕に逾越節筵を食すべき室は何處に在るかと。
15 彼爾等に敷き飾りて備へたる大なる楼を示さん、彼處に我等の爲に備へよ。
16 門徒出でて、城に來りしに、其言ひし如き事に遇へり、乃逾越節筵を備へたり。
17 暮に及びて、彼十二徒と偕に來る。
18 旣に席坐して食する時、イイスス曰へり、我誠に爾等に語ぐ、爾等の中の一人、我と共に食する者は、我を賣らん。
19 彼等憂ひて、十一彼に謂へり、是れ我に非ずや、又他の者云ふ、是れ我に非ずや。
20 答へて曰へり、十二の中の一、我と偕に盂に蘸す者是なり。
21 人の子は逝く、之を指して錄されしが如し、惟人の子を賣る者は禍なるかな、斯の人生れざりしならば、彼の爲に善かりしならん。
22 彼等が食する時、イイスス餅を取り祝福して之を擘き、彼等に與へて曰へり、取りて食へ、是れ我の體なり。
23 又爵を取り、感謝して彼等に與へしに、皆之を飮めり。
24 彼曰へり、是れ我の新約の血、衆くの人の爲に流さるる者なり。
25 我誠に爾等に語ぐ、我復葡萄の實より飮まずして、神の國に於て新しき者を呑む日に至らむ。
26 旣に詠ひて、橄欖山に往けり。
27 イイスス彼等に謂ふ、爾等皆今夜我の爲に躓かん、蓋錄せるあり、我牧者を擊たん、而して羊は散らんと。
28 我が復活の後、我爾等に先だちてガリレヤに往かん。
29 ペトル彼に謂へり、皆躓くとも、我は然らざらん。
30 イイスス彼に謂ふ、我誠に爾に語ぐ、今日此の夜、鶏の再鳴かざる先に、爾三次我を諱まん。
31 彼益力言して曰へり、我爾と偕に死すとも、爾を諱まざらん、皆亦是くの如く言へり。
32 ゲフシマニヤと名づくる處に來りて、イイスス其門徒に謂ふ、爾等此に坐して、我が往きて祈るを待て。
33 乃ペトル、イアコフ、イオアンを攜へて己と偕にし、畏と哀とを催せり。
34 又彼等に謂ふ、我が靈憂ひて死に近づけり、爾等此に在りて儆醒せよ。
35 乃少しく離れて、地に伏し、若し能すべくば、斯の時に彼を過ぎんことを祈りて
36 曰へり、「アウワ」父よ、爾には能せざる所なし、此の爵をして我を過ぎしめよ、然れども我が欲する所成らずして、爾が欲する所成るべし。 37 遂に來りて、彼等の寝ぬるを見て、ペトルに謂ふ、シモンよ、爾寝ぬるか、一時も儆醒する能はざりしか、 38 爾等儆醒せよ、祈禱せよ、誘惑に入らざらん爲なり、神゜は勇めども、肉體は弱し。 39 復往きて、同じき言を言ひて祈れり。 40 返りて、彼等の復寝ぬるを見たり、其目倦みたればなり、彼等何を以て彼に對ふべきを知らざりき。 41 第三次來りて、彼等に謂ふ、爾等尚寝ねて休むか、已みぬ、時至れり、視よ、人の子は罪人の手に付さる。 42 起きよ、行かん、視よ、我を付す者は近づけり。 43 彼が尚言ふ時、忽十二の一なるイウダは來り、劔と棒とを持てる多くの民、司祭諸長、學士等、及び長老等より遣されし者は、彼と偕にせり。 44 イイススを付す者彼等に號を與へて曰へり、我が接吻せん者は、卽斯の人なり、彼を執へて、愼みて之を曳けと。 45 來りて、直に彼に就きて曰く、夫子、夫子、乃彼に接吻せり。 46 彼等其手をイイススに措きて、之を執へたり。 47 此に立てる者の一人劔を抜きて、司祭長の僕を擊ちて、其耳を削げり。 48 イイスス彼等に謂へり、爾等は盗賊に向ふ如く、劔と棒とを持ちて我を捕へん爲に出でたり。 49 我日々爾等と偕に殿に在りて誨へしに、爾等我を執へざりき、然れども聖書は應ふべし。 50 其時皆彼を遺てて奔れり。 51 一の少き者裸體に布を纏ひて、彼に從ひしに、兵卒之を執ふ、 52 少き者布を棄てて、裸體にして奔れり。 53 イイススを曳きて、司祭長に至りしに、彼處には司祭諸長、長老等、學士等、咸く集れり。 54 ペトル遠く彼に隨ひて、司祭長の中庭の内に入り、下吏等と偕に坐して、火に煖れり。 55 司祭諸長及び全公會は、イイススを死に致さん爲に、彼に對する證を求めたれども、得ざりき。 56 蓋多くの者彼に對して妄證したれども、其證は符はざりき。 57 或者起ちて、彼に對して妄證して曰へり。 58 我等其言ふを聞けり、曰く、我手にて造られたる此の殿を毀ちて、三日の中に手にて造られざる他の者を建てんと。 59 但し此の證も亦符はざりき。 60 是に於て司祭長中に立ちて、イイススに問ひて曰へり、爾答ふる所なきか、彼等が爾に對して證する所如何。 61 然れども彼默然として、一も答へざりき。司祭長復彼に問ひて曰へり、爾は讚美せらるる者の子ハリストスなるか。 62 イイスス曰へり、我なり、且爾等は人の子が大能の右に坐し、天の雲に乗りて來るを見ん。 63 其時司祭長己の衣を裂きて曰く、我等何ぞ復證者を求めん、 64 爾等其神を瀆すを聞けり、爾等如何に意ふか。彼等皆之を死に當る者と定めたり。 65 是に於て或者は彼に唾し、亦其面を掩ひて、彼を擊ちて曰へり、預言せよ、下吏等も亦其頬を批てり。 66 ペトル下に中庭に在る時、司祭長の婢の一人は來り、 67 ペトルの煖まれるを見て、之に目を注ぎて曰く、爾もナザレトのイイススと偕に在りき。 68 然れども彼諱みて曰へり、我爾が言ふ所を知らず、亦覺らず。乃外に前庭に出でたれば、鶏鳴けり。 69 婢又彼を見て、旁に立てる者に謂へり、此の人も其黨の一人なり。 70 彼復諱みたり。少頃ありて彼處に立てる者、復ペトルに謂へり、誠に爾等も其黨の一人なり、蓋爾はガリレヤ人にして、爾の言語は似たり。 71 彼は詛ひ且誓へり、我爾等が言ふ所の人を識らずと。 72 斯の時鶏再鳴けり。ペトルはイイススの彼に、鶏の二次鳴かざる先に爾三次我を諱まんと、云ひし言を憶ひ起して哭けり。
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36 曰へり、「アウワ」父よ、爾には能せざる所なし、此の爵をして我を過ぎしめよ、然れども我が欲する所成らずして、爾が欲する所成るべし。 37 遂に來りて、彼等の寝ぬるを見て、ペトルに謂ふ、シモンよ、爾寝ぬるか、一時も儆醒する能はざりしか、 38 爾等儆醒せよ、祈禱せよ、誘惑に入らざらん爲なり、神゜は勇めども、肉體は弱し。 39 復往きて、同じき言を言ひて祈れり。 40 返りて、彼等の復寝ぬるを見たり、其目倦みたればなり、彼等何を以て彼に對ふべきを知らざりき。 41 第三次來りて、彼等に謂ふ、爾等尚寝ねて休むか、已みぬ、時至れり、視よ、人の子は罪人の手に付さる。 42 起きよ、行かん、視よ、我を付す者は近づけり。 43 彼が尚言ふ時、忽十二の一なるイウダは來り、劔と棒とを持てる多くの民、司祭諸長、學士等、及び長老等より遣されし者は、彼と偕にせり。 44 イイススを付す者彼等に號を與へて曰へり、我が接吻せん者は、卽斯の人なり、彼を執へて、愼みて之を曳けと。 45 來りて、直に彼に就きて曰く、夫子、夫子、乃彼に接吻せり。 46 彼等其手をイイススに措きて、之を執へたり。 47 此に立てる者の一人劔を抜きて、司祭長の僕を擊ちて、其耳を削げり。 48 イイスス彼等に謂へり、爾等は盗賊に向ふ如く、劔と棒とを持ちて我を捕へん爲に出でたり。 49 我日々爾等と偕に殿に在りて誨へしに、爾等我を執へざりき、然れども聖書は應ふべし。 50 其時皆彼を遺てて奔れり。 51 一の少き者裸體に布を纏ひて、彼に從ひしに、兵卒之を執ふ、 52 少き者布を棄てて、裸體にして奔れり。 53 イイススを曳きて、司祭長に至りしに、彼處には司祭諸長、長老等、學士等、咸く集れり。 54 ペトル遠く彼に隨ひて、司祭長の中庭の内に入り、下吏等と偕に坐して、火に煖れり。 55 司祭諸長及び全公會は、イイススを死に致さん爲に、彼に對する證を求めたれども、得ざりき。 56 蓋多くの者彼に對して妄證したれども、其證は符はざりき。 57 或者起ちて、彼に對して妄證して曰へり。 58 我等其言ふを聞けり、曰く、我手にて造られたる此の殿を毀ちて、三日の中に手にて造られざる他の者を建てんと。 59 但し此の證も亦符はざりき。 60 是に於て司祭長中に立ちて、イイススに問ひて曰へり、爾答ふる所なきか、彼等が爾に對して證する所如何。 61 然れども彼默然として、一も答へざりき。司祭長復彼に問ひて曰へり、爾は讚美せらるる者の子ハリストスなるか。 62 イイスス曰へり、我なり、且爾等は人の子が大能の右に坐し、天の雲に乗りて來るを見ん。 63 其時司祭長己の衣を裂きて曰く、我等何ぞ復證者を求めん、 64 爾等其神を瀆すを聞けり、爾等如何に意ふか。彼等皆之を死に當る者と定めたり。 65 是に於て或者は彼に唾し、亦其面を掩ひて、彼を擊ちて曰へり、預言せよ、下吏等も亦其頬を批てり。 66 ペトル下に中庭に在る時、司祭長の婢の一人は來り、 67 ペトルの煖まれるを見て、之に目を注ぎて曰く、爾もナザレトのイイススと偕に在りき。 68 然れども彼諱みて曰へり、我爾が言ふ所を知らず、亦覺らず。乃外に前庭に出でたれば、鶏鳴けり。 69 婢又彼を見て、旁に立てる者に謂へり、此の人も其黨の一人なり。 70 彼復諱みたり。少頃ありて彼處に立てる者、復ペトルに謂へり、誠に爾等も其黨の一人なり、蓋爾はガリレヤ人にして、爾の言語は似たり。 71 彼は詛ひ且誓へり、我爾等が言ふ所の人を識らずと。 72 斯の時鶏再鳴けり。ペトルはイイススの彼に、鶏の二次鳴かざる先に爾三次我を諱まんと、云ひし言を憶ひ起して哭けり。