2023年01月27日 13:20
第27章 (聖使徒行実)
1 我等已にイタリヤに航らんことを定められたれば、パワェル及び他の或囚者等を、アウグストの隊の百夫長ユリイと名づくる者に付せり。
2 我等はアシヤの諸所を經んとするアドラミトの舟に登りて行けり。マケドニヤのフェサロニカの人アリスタルフ我等と偕にせり。
3 次の日シドンに着けり。ユリイは善くパワェルを侍ひて、彼に親友に往きて、其愛顧を受くるを許せり。
4 旣に彼處を發し、風の逆ふに因りて、キプルに沿ひて過ぎ、
5 キリキヤ及びパムフィリヤに對へる海を渡りて、リキヤのミラに至れり。
6 彼處に在りて、百夫長はイタリヤに往くアレキサンドリヤの舟に遇ひて、我等を之に乗せたり。
7 多日の間舟の行くこと遅く、僅にクニドの對面に至り、風の逆ひて、我等を阻むに因りて、クリトの下を行きて、サルモンを經、
8 僅に之を過ぎて、佳湊と名づくる處に至れり、其近傍にラセヤの邑あり。
9 時を歴ること久しく、齋の期も過ぎたれば、航海已に危険なるに因りて、パワェル彼等を諫めて
10 曰へり、人人よ、我觀るに、航海は困難にして、損害多からん、第載貨と舟とのみならず、我等の生命にも及ばん。
11 然れども百夫長は舵師と舟長とを信ぜしこと、パワェルの言ふ所に過ぎたり。
12 此の湊は冬を過ごすに便ならざれば、多くの者は彼處を離れて、或は能すべくば、フィニカに至りて、彼處に冬を過さんことを勧めたり、是れクリトの湊にして、西南と西北との風を避くる處なり。
13 南風徐に吹きたれば、彼等志を得たりと意ひ、錨を擧げて、クリトに傍ひて行けり。
14 然るに幾ならずして、エウロクリドンと名づくる狂風驟に起りて、之に逆へり。
15 舟は風に勝へずして、掣き去られ、我等其蕩ふに任せたり。
16 クラウダと名づくる小島の下に駛せて、我等僅に小艇を収むるを得たり。
17 之を擧げて後、多方を以て舟を護りて、之を縛り、且浅瀬に乗り上げんことを恐れて、帆を下して蕩へり。
18 風の甚狂へるに因りて、次の日載貨を棄て、
19 第三日に及びて、我等手づから舟具を擲てり。
20 多日の間日も星も現れず、烈しき風息まざるに因りて、我等の救はるる望竟に絶えたり。
21 彼等久しく食はざるに因りて、パワェル其中に立ちて曰へり、人人よ、爾等曾て我に聽きて、クリトを離れずして、此の困難と損害とを免るべかりしなり。
22 今も我爾等に心を安んずるを勧む、蓋爾等の中一人も生命を失はず、惟舟を失はん。
23 蓋我が属する所、我が奉事する所の神の使は、是の夜我に現れて
24 曰へり、パワェルよ、懼るる勿れ、爾ケサリの前に立つべし、視よ、神は爾と偕に航海する者を悉く爾に賜へりと。
25 故に人人よ、心を安んぜよ、蓋我神を信ず、其我に語りし如く、斯く成らん。
26 我等必一の島に擲たるべし。
27 第十四夜に至りて、我等アドリヤの海に飄はさるる時、約夜半に、舟人は或岸に近づくと意へり。
28 深を測りて、二十仭を得たり、少しく進みて、又測りたれば、十五仭を得たり。
29 石のある處に擲たれんことを恐れて、舟尾より四の錨を投して、天の明くるを俟てり。
30 舟人は舟より逃れんと欲し、錨を舟首より投さんとする状を爲して、小艇を海に下ぐる時、
31 パワェルは百夫長と兵卒とに謂へり、此の人人舟に留らざれば爾等救はるる能はず。
32 兵卒卽小舟の索を斷ちて、其墜つるに任せたり。
33 天明けんとする時、パワェル衆人に糧を取らんことを勧めて曰へり、爾等食はずして、飢ゑて俟つこと今已に十四日なり。
34 故に我爾等に糧を取らんことを勧む、是れ爾等の救の助と爲らん、蓋爾等の一人にも、髪一縷だに首より隕ちざらん。
35 言ひ竟りて、餅を取りて、衆人の前に神に感謝し、擘きて先づ食へり。
36 是に於て衆人心を安んじて、亦糧を取れり。
37 我等舟に在りし者は、共に二百七十六人なりき。
38 旣に食ひて飽き、麥を海に棄てて、舟を輕くせり。
39 天明けて、其地を識らざりき、然れども一の海湾の登るべき岸あるを見て、能すべくば、彼處に舟を着けんと謀れり。
40 乃錨を擧げ、舵の纜を鬆べ、小き帆を揚げ、風に順ひ、岸を望みて進めり。
41 二水の交り流るる處に至りて、舟を洲に乗り上げ、舟首は膠く着きて動かず、舟尾は浪の勁きに因りて破れたり。
42 兵卒は囚人を殺さんと謀れり、其洇ぎて逃るる者なからん爲なり。
43 然れども百夫長はパワェルを救はんと欲して、其謀る所を阻み、能く洇ぐ者に、先づ水に投じて岸に登り、
44 其餘の者に、或は板に乗り、或は他物に藉らんことを命じたり、是くの如く皆救はれて岸に登れり。
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